額の整形の医学

● 額の整形の意義

美人は額で差をつける!目や鼻の美容整形は誰でもい思いつきますが、額の整形は思いつかない人も多いです。額の美しい人はここで差をつけます。
東洋人は額が狭い、コケている人は多いもので、粗野、貧相なイメージの人が多いものです。これをふっくらと丸く大きめにするとキューピーちゃんのように、可愛く、若く、そして目鼻もキチンとしていると育ちが良い、頭が良さそうという演出ができます。
顔の縦の黄金律は1:1:1(額:鼻:口と顎)ですが、女性の場合、額を例えば1.2、口と顎で0.8とすると幾つになってもチャーミングなイメージが保てるものです。逆に男性で会社社長や重役なら顎が大きいイメージの方が似合う顔になります。

● 手術の変遷

随分昔は鼻や顎に「肉質注射」と称してオルガノーゲンやシリコンジェルを注入していましたが、額も同様でした。しかし異物ですから後々は変形を来し悲惨だったものです。その後は鼻や顎にシリコンプロテーゼが使われるようになると伴に、額もそれにならいました。ずっとその治療法が続いているのですが、この10年位は頭の皮を剥がして骨セメントかハイドロキシアパタイト(HA)骨に接着させる手術も行われるようになり、ハイドロキシアパタイトの場合は硬化時に発熱しないので、小切開から骨膜下に流し込む方法も取り入れられ、アメリカの美容整形の雑誌にその論文が出ています。
また近年はプチ整形の一環として額にヒアルロン酸やレディエッセの注入が行われる事もありますが、やはり線状の注入で面として均一でハリのある感じは出せず、骨セメントやハイドロキシアパタイト(HA)と比較し形状で劣ります。また後々だいぶ無くなるのが欠点です。

● 額シリコンプレート

鼻に使う固形シリコンと全く同じ素材で板状のシリコンプレートが既成品で発売されています。手術は局所麻酔で切開を4cmほど頭髪内で行い骨膜下を剥離、挿入します。手術後の頭皮の腫れは髪で隠れて目立たず、額自体の腫れも軽度です。後々問題になるのは、切開部で知覚神経が切断されるため、傷より後ろでビリビリした異常感覚を感じるのと、頭皮のハゲ、そして一番の問題が額の皮膚からシリコンプレートの縁(ヘリ)が目立つ事です。

● 人工骨:骨セメント(メチルメタクリレート)

手術ではセメント粉と溶解剤を混合し粘土状に練り、額に付着させ、手で形を整えます(モデリング)。医療全体では主に整形外科(骨)分野で人工関節・人工骨頭を骨髄側と固着させるのに使用されます。この骨セメントは異物である以上に額で使用する場合は「硬化時の発熱」が大きな問題で、皮膚の熱傷を避けるため、頭皮を冠状にグルっと切開(つまり耳の上〜頭頂部〜耳の上)し額の皮を一度全部剥がし、発熱がおさまるまで皮膚軟部組織が触れないようにします。脳は循環する髄液で守られていますから大丈夫でしょう。
この手術は全身麻酔が必須ですし大きく切りますから出血量は多く術後の腫れも長引きます。傷も長いので禿(ハゲ)が一番の問題でしょう。しかし額の形状は良いものです。

●人工骨:ハイドロキシアパタイト(HA)

これは人骨と同じ成分で全く無害と言えます。従来固形のもの整形外科(骨)や脳外科で使用されてきましたが、近年、HA粉と溶解液を混ぜ後で硬化する「ペースト状アパタイト」が開発され用途が拡大されました。
美容外科の額の整形で上記、骨セメント同様に冠状切開・剥離で前頭骨に塗りつけることも行われますが、硬化時の発熱がないので、小切開から骨膜下を剥離&注入の方がメリットは大きいと言えます。この注入後は皮膚を介してモデリングします。だいたい固まるのに15分程かかります。局所麻酔で楽に行え傷も小さく腫れも最小限で済みます。
問題点は皮膚を介してのモデリングですから上手にやらないと起伏を生じることです。それを回避する場合は、骨セメントと同様の冠状切開で行うべきですが、HA使用のメリットが「全く無害」であること以外は生かせません。

●これらの手術の弊害

シリコンプレートを使用する場合は、メーカーで売っている既製品が、面積的に小さめで且つ板状のため、入れた後、辺縁に軽い段差を生じ、それが見た目に分かるのが最大の欠点です。これを治すのに私(木村)を含め浮き上がった縁に脂肪注入をしていた医師はいましたが、やはりキューピーちゃんのような広めの綺麗な額というより、薄いシリコンでは大して変わらないor厚くなっていくに従い中央部が突出気味のデコッパチの様相を呈する事は多いものです。またシリコン挿入が生え際から後ろ3〜4cm程度では知覚神経の一部の切断は避けられず、しばらくは異常知覚が気になるものです。
骨セメントは、私、木村は整形外科において人工関節・人工骨頭置換術で平成6年まで度々使っていましたが、粉と溶剤を混ぜると有機溶剤というかシンナーのような臭いがプ〜ンと立ちこめ、骨髄腔に入れると、よく血圧がドーンと下がり麻酔科医から嫌がられたものでした。また整形外科で下肢のコンポーネント(人工物)に骨セメントを使うと荷重に耐え切れず10〜20年でズレが出てきて、これをLoosening(ルーズニング)と呼び、グラグラしてきたら再置換:Revision(リビジョン)を行っていました。ただ、このセメントも額に使う場合は骨皮質の上に乗せるので有機溶媒の副作用もないでしょうし、荷重のような不可はかからないところですからズレることもないと観ます。やはり実際の問題は片方の耳の上〜頭頂部付近〜もう片方の耳の上まで切開し・頭皮を眉側まで剥がす出血・侵襲の多さ、全身麻酔となること、頭皮の長い傷は、「禿げ」としてずっと残る事が一番の問題でしょう。
ハイドロキシアパタイトの問題は小切開から行う場合、額の皮膚を介してのモデリングのため、緊張感のある局面の形成の成績に術者間で差が出ることです。